第五回複合アニオンウェブセミナー開催のお知らせ

第五回複合アニオンウェブセミナー開催のお知らせ

9月29日(火) 17:00~19:00 (15分前から入室できます)

プログラム

17:00~17:15 主催者挨拶ならびに「複合イオン化合物セッション 表彰」
17:15~17:50 講演1.「水酸化物-酸化物転換過程での分相を利用した多孔質メソクリスタル」林克郎 (A02代表 九州大学)
17:50~18:25 講演2. 「複合アニオン化合物の誘電・強誘電特性」保科 拓也 (A02公募 東京工業大学) 
18:25~19:00 講演3. 「固体NMRによる複合アニオン化合物の解析手法の開発」野田 泰斗(A02分担 京都大学)

ご興味をお持ちいただけましたら、事務局代表補佐(a.nishinosono(a)cstf.kyushu-u.ac.jp (a)を@にしてください)宛にご連絡お願いいたします。

折り返し、ミーティングに関するアドレスをお知らせいたします。

講演概要

1.「水酸化物-酸化物転換過程での分相を利用した多孔質メソクリスタル」

 林 克郎 A02代表 九州大学

本領域では、酸化物などの母物質から、酸窒化物や酸フッ化物、酸水素化物を得る様々な手法やプロセスが開拓され、多くの新物質とより利用し易い合成法を得るに至っている。逆に非酸化物から複合アニオン化合物や酸化物に至るプロセスも考え得て、興味の対象となり得る。本講演では、複合金属イオンの水酸化物から、相分離の過程を経て多孔質メソクリスタル(結晶方位の揃った微結晶集合体)を得るプロセスにつて述べる。最初の例では、ハイドロガーネット型Ca-Al水酸化物の立方自形結晶からマイエナイト型12CaO・7Al2O3(C12A7)結晶の多孔質メソクリスタルとCaO-Ca(OH)2の共連続構造を得て、その後、CaO-Ca(OH)2を溶解除去して得ている [1]。ちなみにC12A7はケージ構造を持つので、Mesoporous Mesocrystallline Microcube of Microporous Crystalが得られたことになる。本系での鍵は前駆体のガーネット構造とマイエナイト構造が類似していることで、結晶方位関係を維持していると推察されること、および、平衡では溶解が困難な3CaO・Al2O3相が生成するはずであるが、酸水酸化物状態の過渡領域を経る事で、非平衡相のCaO-Ca(OH)2が生成している事である。この結果を基に、ハイドロガーネット型Sr-Fe水酸化物から、ペロブスカイト型SrFeO3-dの多孔質メソクリスタルを得て、本手法がハイドロガーネット系に一般に拡張し得る事が分かった[2]。この様なユニークな多孔体は、伝導性(イオン、金属、絶縁、超伝導)、磁性、気相との反応性(吸着、触媒、電気化学)を繋ぐ場となり得る。
[1] Topotactic Synthesis of Mesoporous 12CaO·7Al2O3 Mesocrystalline Microcubes toward Catalytic Ammonia Synthesis
George Hasegawa, Shizuka Moriya, Miki Inada, Masaaki Kitano, Masaaki Okunaka, Takahisa Yamamoto, Yuko Matsukawa, Kazuma Nishimi, Kazunari Shima, Naoya Enomoto, Satoru Matsuishi, Hideo Hosono, Katsuro Hayashi
Chemistry of Materials 30 (14), 4498-4502 (2018).
[2] 多孔質SrFeO<sub>3-δ</sub>粒子の作製と酸素放出剤への応用, 大田黒 光・赤松 寛文・林 克郎・長谷川 丈二, 日本セラミックス協会 第33回秋季シンポジウム G0285 (2020).


2.「複合アニオン化合物の誘電・強誘電特性」

 保科 拓也 A02公募 東京工業大学 

誘電体・強誘電体材料の諸特性は、物質を構成するカチオン-アニオン間の結合状態、イオン秩序構造、欠陥構造などと深く関わっているため、従来の酸化物材料の酸素の一部を他のアニオンに置換することによって、特性の制御が可能であると考えられる。本講演では、誘電分極メカニズムの基本に立ち返り、複合アニオン強誘電体関連物質がどのように設計可能であるのか議論する。また、複合アニオン強誘電体関連物質に関する合成・計算・誘電特性手法について、我々の研究成果を中心に紹介する。


3.「固体NMRによる複合アニオン化合物の解析手法の開発」

 野田 泰斗 A02分担 京都大学

 複数のアニオンから構成される複合アニオン化合物は、アニオンの種類や配置の組み合わせにより単一のアニオンでは実現し得なかったような物性や機能を有することがわかってきました。複合アニオン化合物を理解し制御するには構造の理解が不可欠です。しかし同周期のアニオンは電子配置が似通うため電子散乱を利用する解析手法単独では構造決定が難しいという問題があります。固体NMRは磁場中の核スピンを介して観測核種の周りの局所構造や運動性の情報を引き出す分光学的手法です。核スピンのエネルギー分裂は電子配置より核種に強く依存するため同周期のアニオンを区別することができます。また核スピン間での相互作用を利用して距離や化学結合の相関を取ることできます。本セミナーでは、固体NMRを用いてシス・トランス配置を解析する手法の開発[1]や、現在取り組んでいるプロトン・ヒドリドを区別する手法の開発、固体NMRを用いた複合アニオン化合物の解析[2-5]について固体NMRの面白さも交えながら講演する予定です。

1. Y. Goto, C. Tassel, Y. Noda, O. Hernandez, C. J. Pickard, M. A. Green, H. Sakaebe, N. Taguchi, Y. Uchimoto, Y. Kobayashi, and H. Kageyama, Inorg. Chem. 56 (2017) 4840.
2. A. Riapanitra, Y. Asakura, W. Cao, Y. Noda, and S. Yin, Nanotechnology 29 (2018) 244006.
3. S. Uchida, T. Okunaga, Y. Harada, S. Magira, Y. Noda, T. Mizuno and T. Tachikawa, Nanoscale 11 (2019) 5460.
4. Y. Inaguma, K. Ueda, T. Katsumata, and Y. Noda, J. Solid State Chem. 277 (2019) 363.
5. Y. Kinoshita, Y. Shimoyama, Y. Masui, Y. Kawahara, K. Arai, T. Motohashi, Y. Noda, and S. Uchida, Langmuir 36 (2020) 6277.